魚編に虎と書いて鯱と読む!!

名古屋で読書会サークルを主催しています。読書の話を中心に徒然と書きます。グランパスが大好き。本職は公認情報システム監査人やってます。

北方謙三「三国志(六)」

※.最初に言っておくと、この第6巻の「わが名は孔明」の章を読む際には、真田丸サウンドトラックの「ふたりでひとつ」を掛けながら読むことをお勧めします。涙腺ドバーッと決壊して、涙デトックスには、都合がいいのです。
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北方三国志、前半最後の見せ場となる「三顧の礼」。
劉備の二度目の訪問後、一人呻く孔明の気持ちは痛いほど分かる。自分の才能を活かすことのできる場所も機会もない。このまま、自分は何も事を成さないまま、朽ち果てていくのか。しかし、その機会がやって来た。三たび、劉備が自分のことを「必要だ」と言ってくれた。見ず知らずの年下の青年に、何度も志や夢について熱く語り、そして何よりも、そのためには自分が必要だと語る劉備に、孔明が『一生ついていこう』と決心するのも分かる。陳腐な表現かもしれないが、『男が男に惚れる』とは、こんな感じなのではないか、ただ、そんな気がした。
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冒頭で、僕は『前半最後の見せ場』と書いた。一度、書き上げたあとに、やっぱり書き足らない、というか、この巻については、もっともっと、書くべきことがある気がした。
正確には、僕にとって『北方三国志、最大最高の見せ場』である。文庫版だと8頁に跨る3回目の訪問シーン、僕は、かつて、この8頁を全てコピーして、手帳に貼り付けていたこともある。それくらい、このシーンが好きだ。

このまま、自分は誰にも知られないまま、朽ち果てていくと思っていた。しかし、『熱い志』と言葉にするには簡単だけど、成し遂げるのが非常に困難な事を成し遂げるために、本当に自分のことを必要だ、と言ってくれる人が、目の前に現れた。彼の言葉は、決して詭弁でもマヤカシでもない。こんな若僧に、心から真剣な目で、語ってくれる人がいた。だったら、もう迷うことはない。この人についていくしかない。この人と、ともに天下を制し、ともに志を果たしたい。そんな孔明の気持ちを読み取った時、孔明が羨ましくも思える。
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かくして、三国志上、最大最高最強の主従コンビが、ここに生まれたのだ。ただ、そんな気がした。

 

三国志 (6の巻) (ハルキ文庫―時代小説文庫)

三国志 (6の巻) (ハルキ文庫―時代小説文庫)

 

 

 

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北方謙三「三国志(五)」

また一人、地味ではあるけど、恩人のためなら、命を捨てることも躊躇わない漢、伊籍が登場。彼もまた武人ではないといえ、その心意気はまさしく武士。そんな伊籍が張飛とお互いを認め合うというのも理解できる。
張飛といえば、この巻では、『運命の人』董香と出逢い、所帯を持つことになるが、これが実に微笑ましい。招揺を巡っての一幕は、読んでるこっちが気恥ずかしくなる。天下の豪傑とは思えぬ純情さ。

 

三国志 (5の巻) (ハルキ文庫―時代小説文庫)

三国志 (5の巻) (ハルキ文庫―時代小説文庫)

 

 

 

北方謙三「三国志(四)」

まだまだ耐える季節の続く劉備陣営。そんな中、癒し系マスコットの王安が登場。そんな王安を厳しく鍛えながらも、父親のような優しさ(?)で見守る張飛乱暴者のイメージが強い張飛だけど、北方三国志では強さだけでなく、優しさを兼ね備えた、そんなハードボイルド色が、最も強い。
一方、北ではキング・オブ・噛ませ犬こと袁紹が、曹操と激突。本人も噛ませ犬なら、息子や重臣たちも才能の無駄遣いというか、なんというか。攻城部隊の裏切りが象徴的。

 

三国志〈4の巻〉列肆の星 (ハルキ文庫―時代小説文庫)

三国志〈4の巻〉列肆の星 (ハルキ文庫―時代小説文庫)

 

 

 

北方謙三「三国志(三)」

ライバルたちが着々と勢力を伸ばす中、焦ったくも、秋(とき)が来るのを待つしかない劉備陣営。よりによって、曹操に頼らざるを得ない心中は読んでるこっちも辛くなる。
その一方で、稀代の豪傑、呂布が散る。曹操劉備と違い、生涯一軍人としか生きられなかった漢に相応しい最期だったのかもしれない。海に向かって咆哮する赤兎の姿が象徴的。

 

三国志〈3の巻〉玄戈の星 (ハルキ文庫―時代小説文庫)

三国志〈3の巻〉玄戈の星 (ハルキ文庫―時代小説文庫)

 

 

 

北方謙三「三国志(二)」

実は、この巻の主役は糜竺ではないかと思う。
他の作品から入った人からしたら、誰それ、とか、地味とか言われるけど、徐州時代から劉備に付き従い、荊州益州まで閣僚の実質トップとして活躍した政治家。同じく徐州時代からの古株、孫乾と合わせて、もっと評価されるべき人物と思う。
初登場では、武士でもないのに命を張って劉備を説得、「商人である前に、この国の人でありますよ、私は」。まさしく、彼もまた、漢の中の漢。
北方謙三作品の素晴らしい点は、こういった歴史上、目立つことのなかった人物にも役割を与えて描いてるとこじゃないかと思う。

 

三国志〈2の巻〉参旗の星 (ハルキ文庫―時代小説文庫)

三国志〈2の巻〉参旗の星 (ハルキ文庫―時代小説文庫)

 

 

 

北方謙三「三国志(一)」

壮大な物語の幕が切って落とされた。冒頭、劉備が「男には、命を捨てても守らなければならないものがある。それが信義だ、と私は思っている」と語る。
うん、今までに読んできた三国志とは全く違う。そう、これはハードボイルドな世界に生きる漢たちのドラマなのだ。
この先の史実は既に知っている。しかし、まだ知らない物語が、ここから始まろうとしている。そんなワクワク感に満ち溢れた、最初の一冊。

 

三国志 (1の巻) (ハルキ文庫―時代小説文庫)

三国志 (1の巻) (ハルキ文庫―時代小説文庫)

 

 

 

「新古今和歌集」

百人一首に採用された和歌が意外と多くて、その分、全般的に親しみやすい。
歌もさることながら、後鳥羽院の情熱というか執念みたいなものを感じる。一旦、和歌集として成立した後に、自分の詠んだ歌を追加したというのも分かる気がする。

奥山の おどろが下も 踏み分けて
道ある世ぞと 人に知らせん
(一六三五 後鳥羽院)

 

新古今和歌集―ビギナーズ・クラシックス (角川ソフィア文庫 88 ビギナーズ・クラシックス)