魚編に虎と書いて鯱と読む!!

名古屋で読書会サークルを主催しています。読書の話を中心に徒然と書きます。グランパスが大好き。本職は公認情報システム監査人やってます。

文学

北方謙三「三国志(十二)」

劉備の崩御に伴い、この巻より主人公交代。表の主人公は孔明、裏の主人公は死んだことにされた馬超。稀代の英雄達が去り、人材不足難に襲われる蜀漢。期待の馬謖は山登りの罪で、泣いて斬られるし、最後の柱、趙雲も孔明を一人残して病死。孔明の心身ともに…

北方謙三「三国志(十一)」

巨星、墜つ。関羽、張飛の仇を打てず、失意のまま、劉備が崩御。一つの時代が終わる。 劉備と孔明との最期の別れのシーンは何度読んでも、涙を禁じ得ない。信義に生きた漢が、最後に漢と漢の約束を友に託し散っていく姿は、この北方三国志を象徴するようなシ…

北方謙三「三国志(十)」

関羽の死の衝撃が劉備陣営に襲い掛かって、息つく間もなく、曹操が死去。そして後漢滅亡。曹丕が魏の初代皇帝となり、劉備も蜀漢の初代皇帝に即位、と忙しい。そんな中、張飛が呉の致死軍の手によって暗殺される。この張飛暗殺計画というのが、実にエグい。…

北方謙三「三国志(九)」

ついに益州と漢中を手に入れ、魏、呉に次ぐ第三勢力となった劉備陣営。でも、ここからは一巻ごとに、主要人物が死んでいくという、悲しい展開に。第9巻では、『美髯公』こと関羽が、魏・呉の罠にはまり戦死。しかし、その潔い死は敵将たちも感嘆せざるを得な…

北方謙三「三国志(八)」

赤壁の戦い後、荊州南部を手に入れ、いよいよ、のちの本拠地となる益州攻防戦に突入する劉備軍。今、思うと、この頃が一番充実していた気もする。戦えば勝利に次ぐ勝利、領地を広げ、龐統、黄忠、魏延、馬良、馬謖、法正、李厳etc.と、文武ともに有能な人材…

北方謙三「三国志(七)」

いよいよ「レッドクリフ」赤壁の戦いへ。開戦に至るまでの曹操、孫権(というか周瑜)、そして劉備それぞれの陣営の駆け引き一つ一つ、どれを取っても、読んでいて手に汗を握る。北方謙三が描く歴史小説の特長といえば、戦場の華ともいえる騎馬隊だ。大水滸伝…

北方謙三「三国志(六)」

※.最初に言っておくと、この第6巻の「わが名は孔明」の章を読む際には、真田丸サウンドトラックの「ふたりでひとつ」を掛けながら読むことをお勧めします。涙腺ドバーッと決壊して、涙デトックスには、都合がいいのです。---北方三国志、前半最後の見せ場と…

北方謙三「三国志(五)」

また一人、地味ではあるけど、恩人のためなら、命を捨てることも躊躇わない漢、伊籍が登場。彼もまた武人ではないといえ、その心意気はまさしく武士。そんな伊籍が張飛とお互いを認め合うというのも理解できる。張飛といえば、この巻では、『運命の人』董香…

北方謙三「三国志(四)」

まだまだ耐える季節の続く劉備陣営。そんな中、癒し系マスコットの王安が登場。そんな王安を厳しく鍛えながらも、父親のような優しさ(?)で見守る張飛。乱暴者のイメージが強い張飛だけど、北方三国志では強さだけでなく、優しさを兼ね備えた、そんなハード…

北方謙三「三国志(三)」

ライバルたちが着々と勢力を伸ばす中、焦ったくも、秋(とき)が来るのを待つしかない劉備陣営。よりによって、曹操に頼らざるを得ない心中は読んでるこっちも辛くなる。その一方で、稀代の豪傑、呂布が散る。曹操や劉備と違い、生涯一軍人としか生きられなか…

北方謙三「三国志(二)」

実は、この巻の主役は糜竺ではないかと思う。他の作品から入った人からしたら、誰それ、とか、地味とか言われるけど、徐州時代から劉備に付き従い、荊州、益州まで閣僚の実質トップとして活躍した政治家。同じく徐州時代からの古株、孫乾と合わせて、もっと…

北方謙三「三国志(一)」

壮大な物語の幕が切って落とされた。冒頭、劉備が「男には、命を捨てても守らなければならないものがある。それが信義だ、と私は思っている」と語る。うん、今までに読んできた三国志とは全く違う。そう、これはハードボイルドな世界に生きる漢たちのドラマ…

「新古今和歌集」

百人一首に採用された和歌が意外と多くて、その分、全般的に親しみやすい。歌もさることながら、後鳥羽院の情熱というか執念みたいなものを感じる。一旦、和歌集として成立した後に、自分の詠んだ歌を追加したというのも分かる気がする。 奥山の おどろが下…

「今昔物語集」

平安末期に成立した説話集。日本だけでなく、インド、中国の話も含み、当時としてはグローバル色豊か。仏や神にまつわる話もあると思えば、一方で世俗的な話も多く、例えばライバルを呪い殺す弘法大使だとか、他の作品や史書では絶対に見られない。そして、…

北方謙三「黒龍の柩」

大河「新選組!」を見たあとの僕にとって、新選組を扱った作品の評価基準は山南敬助という人物をどう扱っているか。そうした時に最高評価を上げざるを得ないのが、この北方謙三「黒龍の柩」。上巻での土方と山南の熱い友情、そして山南敬助の死に様の描き方…

白洲正子「能の物語」

白洲正子女史がお能の有名な作品を小説風の文書で書き改めた作品集。お能というと何か難しいものや堅苦しいものを思い浮かべる方もみえると思いますが、そんな人にもピッタリの入門書。 収録された作品の中には「源氏物語」や「平家物語」「伊勢物語」などの…

シェイクスピア「ロミオとジュリエット」

ここで「ロミオとジュリエット」を推すのは二人の純愛に感動したとか、そんなロマンティックな理由ではなく、翻訳家の苦労を味わってみるのも面白いのではということです。 新潮文庫版の冒頭で訳者(中野好夫氏)は次のように告白しています。「ことに訳者をほ…

夏目漱石「坊っちゃん」

漱石の作品の中で一番好き。今の悩みがどうでもよくなるハチャメチャさ。こんな作品を書いてる一方で、こころ、それからとか、どうしたら書けるのか?不思議な人ですね、漱石さん。 坊っちゃん (新潮文庫) 作者: 夏目漱石 出版社/メーカー: 新潮社 発売日: 2…

森鴎外「舞姫」

主人公の豊太郎がとんでもなくダメな男に見える。実際のところ、コミュ障で仲間を作ることもできずに異国で失職するだけでも残念なのに、今度は恩人でもあるエリスをいとも簡単に裏切ってしまうわけで、挙句の果てには悪いのは自分ではない、って人としてど…

ガルシア・マルケス「百年の孤独」

読み終えて最初に思ったこと。「なんなのだ、これは?」『この一族の最初の者は樹につながれ、最後の者は蟻のむさぼるところとなる』メルキアデスが百年前に予言していた通り、元の落ち着くべき場所に落ち着いた一族。「一方通行」の愛しか知らない一族の物…

スティーブン・ミルハウザー「三つの小さな王国」

3作品ともに言えるのだが、妻を寝取られる夫ばかりで屈辱的だよなあ。これは作者の経験かと思って調べてみたら、本当にそうだった。一番最初が「屋根裏の冒険」で始まってワクワクしてたら、なんか現実に戻されて、しかも暗い話になっていき、最後には皆死ん…

宮沢賢治「銀河鉄道の夜」

読んだのは小学校以来だったので、ストーリーを忘れていて、それが却って新鮮だった。カムパネルラはジョバンニに何を託したかったのか?ジョバンニはカムパネルラに何を求めていたのか?上手く言えないけど、生と死の間の絆みたいなものか。賢治独特の世界…

泉鏡花「春昼・春昼後刻」

泉鏡花の作品の美しさは色彩の艶やかさと幻想的な世界観にあると思う。前者に圧倒され、後者で頭の中がボンヤリとした中で読み進むから、妖かしの世界に足を踏み入れたような気になってしまう。しかし、言い換えると、ストーリーはそんなに大したこともない…

夏目漱石「こころ」

何度読んでも、「私」が「先生」に魅かれていくのか分からない。「先生」は先生をしているわけでもなく、いわゆる高等遊民に過ぎない。どこに魅かれたのか、自分に似ているから?それとも、自分にない何かを持っているから?「私」は狂言回し?「先生」と「…

吉川英治「平の将門」

平将門というと平安時代にそぐわないクーデターを起こした、荒々しく「武神」のようなイメージが強いけど、この作品ではもっと人間臭く、みんなの「お兄ちゃん」という感じ。周りに流されすぎというか、弟たちの心配もいいけど、自分の心配もしろよ。という…

佐藤賢一「王妃の離婚」

『死人』という言葉には、オーエンや王妃の父(ルイ11世)も含まれているのかと思ったが、そうではなく、ただベリンダのみを指していた。ベリンダ・オーエン姉弟が結び付けたフランソワと王妃の関係性。そして裁判後のそれぞれの人生は決して恥じるものではな…

司馬遼太郎「豊臣家の人々」

豊臣家にとって最大の不幸だったのは、秀吉と寧々の間に子供ができなかったこと。その結果、何人もの平凡な「人々」がどうの、己の身に何が起きてるかも理解できぬまま、運命を翻弄され続けた。まさに「ひとひらの幻影」に踊らされた一族の悲劇である。 『こ…

ニーチェ「この人を見よ」

マイケル・サンデルに対しても感じたが、日本人と欧米人の道徳観が異なるためか、なぜキリスト教の道徳をニーチェがそこまで批判したかったのかピンとこない。 結局のところ、欧米の道徳観とは宗教(キリスト教)教育の中で教えられていくものであるのに対して…

マルグリット・デュラス「愛人」

「植民地の白人社会の最下層」という設定が全て。登場人物全員が闇を抱えていて、まっとうな人物が一人もいない。誰にも感情移入できないというか、遠くにいる人たちを、ただ遠くから眺めている感じ。ところどころエピソードが入れ替わったりするけれど、老…

「太平記」

平家物語よりも軍記物としてはドロドロしていて、血生臭いけど、そこに人間の欲望を感じ取ることができる。 まさかのオカルト展開が混じっていて、困惑しつつも、悪霊や鬼の存在が信じられている時代なので、書いた人からすると当然のことかもしれない。 太…