「風姿花伝」
昨年2013年は世阿弥生誕650年だったそうです。その世阿弥が能の奥義を子孫に残すために書いた秘伝の書が「風姿花伝」。
書かれている内容は、前述のとおり、能の奥義でありますが、現代を生きる僕たちが読んでも、人生のあらゆる場面で役に立つ術と捉えることもでき、まさに日本最古の「自己啓発本」といったところでしょうか。
例えば、
さりながら、この花は、誠の花には非ず。ただ、時分の花なり。
とありますが、これは『その時々で花となるのではなく、誠の花となりなさい』と言っています。そのためには、基本を大切にしなさい、とも。
また、
しかれば、道を嗜み、藝を重んずる所、私なくば、などかその徳を得ざらん。
とありますが、これも同様に日々の稽古によって基礎を覚えることを疎かにしてはいけないと戒めています。
一方で、
申楽も、人の心に珍しきを知る所、即ち面白き心なり。花と、面白きと、珍しきと、これ三つは、同じ心なり。
とも書いてあり、人にとって珍しく新しいものであるからこそ面白い。そのような珍しいものを築いていくことの大切さを訴えています。この点をドラッカーのイノベーション論に例える方もみえます。技術革新と同様、同じ所に留まらず常に自分の藝を更新せよということでしょうか。
なかなか自分の思い通りに物事が進まず悩む方には、
一切の事に序破急あれば、申楽もこれ同じ。
や、
時の間にも、男時・女時とてあるべし。いかにすれども、能にも、よき時あれば、必ず、また、わろき事あり。これ、力なき因果なり。
と、流れが自分に来ていない時は無理をせず、次の機会をうかがい準備を怠らず、チャンスが来る時まで一気に流れに乗りなさいと言っています。
そして、最後に
信あらば徳あるべし。
とあります。すなわち「信じていれば、必ず良いことがある」といったところでしょうか。英語に直せば、"If you can dream, you can do it."
その他にも人生の節目節目で留意すべき点や、はたまた教育論にも触れられていて、まさに現代の僕たちが読んでも遜色のない本だと思います。
なお、「風姿花伝」今年1月に放映された『100分de名著』(NHK)でも紹介されました。岩波文庫だと訳文が載っておらず古典が苦手な方は少々苦戦すると思います。そんな方には番組のテキストと合わせて読んでみることをオススメします。よりいっそうの理解が進むかもしれませんよ。
世阿弥『風姿花伝』 2014年1月 (100分 de 名著)
【ひこのチェックポイント】
・さりながら、この花は、誠の花には非ず。ただ、時分の花なり。(P.14)
・ただ、人ごとに、この時分の花に迷ひて、やがて、花の失っするをも知らず。初心と申すはこの比の事なり。(P.17)
・ここにて、なほ慎むべし。この比は過ぎし方をも覚え、また、行く先きの手立をも覚る時分なり。(P.19)
・一切の事に序破急あれば、申楽もこれ同じ。(P.43)
・しかれば、道を嗜み、藝を重んずる所、私なくば、などかその徳を得ざらん。(P.69)
・申楽も、人の心に珍しきを知る所、即ち面白き心なり。花と、面白きと、珍しきと、これ三つは、同じ心なり。(P.92)
・能も住する所なきを、先づ、花と知るべし。(P.92)
・秘する花を知る事。秘すれば花なり、秘せずば花なるべからず、となり。(P.103)
・時の間にも、男時・女時とてあるべし。いかにすれども、能にも、よき時あれば、必ず、また、わろき事あり。これ、力なき因果なり。(P.106)
・信あらば徳あるべし。(P.108)